新宮市出身の作家、佐藤春夫(1892~1964年)の旧蔵資料が、遺族から新宮市立佐藤春夫記念館へ寄贈されることになり、受贈式典が24日(土)、東京都渋谷区の実践女子大学渋谷キャンパスで行われる。式典には遺族の髙橋百百子氏をはじめ、新宮市の上田勝之市長、佐藤春夫記念館の辻本雄一館長、実践女子大の難波雅紀学長、東京大学准教授で実践女子大客員研究員の河野龍也氏らが出席する。
今回寄贈されるのは、春夫の原稿、書簡、挿絵原画などを中心とする資料群で、記録・保存のためにデジタル撮影された点数だけでも1万3000点を超える。
中でも太宰治が芥川賞受賞を強く願い、選考委員だった春夫に宛てて送った書簡や、芥川龍之介、井伏鱒二ら文壇を代表する作家との往復書簡は、近代文学史を知る上で極めて貴重な資料として注目されている。
寄贈品には、高村光太郎が若き日の春夫を描いた油彩画「佐藤春夫像」(1914年)も含まれる。この肖像画は現在、和歌山県立近代美術館に保管されている。資料一式は、春夫の長男・方哉(まさや)氏が保管していたもので、没後は遺族と研究者が実践女子大の協力を得て整理、調査を進めてきた。
春夫は大正期浪漫主義を代表する作家として、「田園の憂鬱」で文壇に登場。詩と小説の両分野で活躍し、谷崎潤一郎、芥川龍之介をはじめ、太宰治、井伏鱒二ら後進にも大きな影響を与えた。文化勲章を受章するなど、近代日本文学をけん引した存在で、新宮市にとっても誇るべき文化人である。
寄贈された資料は今後、新宮市に帰属し、今秋に移転開館予定の佐藤春夫記念館での展示活用が予定されている。また、実践女子大との連携により「佐藤春夫デジタル文庫」の開設も計画されており、故郷・新宮から春夫の文学と人脈の全貌を国内外へ発信していく。
河野氏は「佐藤春夫記念館は(東京都)文京区関口にあった旧邸を移築して1989年に開館したもの。近代文学を代表する作家の貴重な資料をこれだけの規模で散逸させずに保管されてきたご遺族の努力に敬意を表したい。今回の資料から、文学と美術の垣根を越えて芸術活動に取り組んだ春夫の全体像がさらに明らかになっていくことに期待したい」とコメントしている。
(2026年1月23日付紙面より)