串本町高富で6月29日、農事「虫送り」が営まれた。6年ぶりの実施で、往事を懐かしむ高富区民の注目を浴びながらその行列が進行した。
この農事は、乗っている馬が収穫後の稲株につまずいてバランスを崩し落馬したところを敵に討たれた平家方の武将・斎藤実盛(さねもり)の怨念が害虫となりイネを食い荒らすという言い伝えに由来。高富では約300年続いた歴史があり、近年は担い手の減少を受け「地域が誇れる伝統文化を守る」と発起した高富区が区行事に位置付けて応援する形で続けていたが2019年を最後にコロナ禍で歴史の断絶を余儀なくされた。
今年に入り、この農事を幼少の頃からずっと見てきた濵昌子さんが有志を集めて発起。半ばで合流する子どもは区外在住の地縁者にも声をかけて誘い、家族の随行を含め60人ほどの参加を得てこの日営むに至った。
実盛の怨念(高富ではクロカメムシがその化身)を詰めたわら船を行列の先頭にし、当たり鉦(がね)を2回打ちほら貝を1回吹き鳴らして進む様子からカンカンプーとも通称されている高富の「虫送り」。有志が高富の農業水利を支えるため池から各水田を経由して高富川河口を目指し、途中で待機する子どものたいまつに火を分けて行列の規模を増した。その明かりで害虫を誘って「実盛様のお通り よろずの武者おとも」と口上を述べながら進み、河口そばの浜にたいまつを挿し立ててわら船を波打ち際から海へと送り出す状況を形にした。
たいまつとわら船は農事後に全て回収してたき上げ、奉仕した子どもは菓子をもらって解散。濵さんは「子どもの頃から『虫送り』が営まれるのを楽しみにしてきた。それがコロナで途絶え今の子どもがそれを知らないのは駄目だと思い、復活させようと思った。高富では『虫送り』が300年以上続いてきたことを参加してくれた今の子どもたちにも感じてもらえたら」と期待し、たき上げを終えて農事を締めくくった。
(2025年7月5日付紙面より)
もっと見る
折たたむ
別窓で見る