「両親が育てていたカキは一粒一粒がもう二回りは大きかったが、味は負けていない」。そう語るのは那智勝浦町浦神でカキ養殖に取り組んでいる畑下真次さん(52)。次回のロケット「カイロス」打ち上げに合わせて来場者に地元産のカキを味わってもらおうと、妻の由美さん(51)と二人三脚で準備を進めている。
旧浦神小学校のロケット公式見学場が位置する浦神湾は、昔からカキや真珠の養殖が行われていた。浦神育ちの真次さんの家では、旬の時期には毎日カキ料理が並んだという。サラリーマンを経験した後、3年前から釣り客向けの遊漁船「由乃丸」を運航しながら漁業に携わり、昨年からカキの養殖を本格化させた。
きっかけは、真次さんの両親が養殖を断念しようとしていたこと。水温などの環境変化でカキが育ちにくくなっており、インターネットなどで情報を集めて学び始めた。由美さんも「私たちの生活があるのも、代々受け継がれてきた環境があるからこそ。何か恩返しをしたい」と後押しした。
一般的な下垂式ではなく、籠に入れて養殖する方法で、魚による食害を防いでいる。稚貝には三倍体と呼ばれる卵を産まない品種を用いており、産卵期に身が痩せて味が落ちる自然のカキと異なり、年間を通じておいしく食べられるという。
県の水産試験場と連携し、水深ごとの水温と植物プランクトン濃度の測定・記録にも取り組んでおり「従来の方法で養殖が難しくなっているのは事実だが、データを蓄積することで、次世代に漁業をつないでいきたい」と語る。
昨年9月の時点で5㍉ほどだった稚貝は、現在では手のひら大に育ち、重さは100~150㌘に。出荷可能な大きさだが「もう少し大きく育ててから出したい。次のロケット打ち上げの頃には、納得できるサイズになるはず」と話す。
今後、漁家民泊や養殖いかだ見学ツアーの実施も検討しており「きれいな海で釣りや体験をしてもらい、特産のカキを味わってもらえたら理想。地元を盛り上げたい」と話している。
海業関連商品の開発を支援している町農林水産課の田中稜大さんも「遊漁船と養殖、漁家民泊の組み合わせは、漁業者の収入向上につながるモデルケースになる。今後も販路開拓など多面的に支援したい」と話していた。
(2025年6月25日付紙面より)